【建設業法19条の3】「不当に低い請負代金」を専門家が徹底解説!(違反事例と対策)

【建設業法19条の3】「不当に低い請負代金」を専門家が徹底解説!(違反事例と対策)

建設業界で働くすべての関係者の皆様、特に元請(ゼネコン)として下請業者との契約実務を担当されている方、あるいは不当な低価格を提示され悩んでいる下請業者の皆様へ。

今回は、疑問を抱く方も多い、建設業における公正な取引の根幹をなす建設業法第19条の3、「不当に低い請負代金の禁止」について、専門家の視点から徹底的に深掘りし、分かりやすく解説します。

「どこからが違反になるのか?」「適法な価格交渉との違いは?」といった、誰もが抱える疑問に対し、具体的な事例を交えてお答えします。

この記事を読むことで、コンプライアンス遵守適正な価格交渉のポイントを理解し、リスクを回避しながら健全なビジネスを進めるための確かな知識が身につくでしょう。ご参考にしていただけると幸いです。

1|建設業法19条の3とは? なぜ「不当な低価格」が禁止されるのか

1. 条文の定義と規定の目的

建設業法第19条の3は、優越的な地位を利用した不当な「買い叩き」を禁止する、建設業取引の公正化における重要規定の一つです。

改めて条文を確認しましょう。

【不当に低い請負代金の禁止】

注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。

この規定の目的は、単に下請けの利益を守るだけでなく、建設工事の品質と安全を確保することにもあります。

  • 下請業者の経営圧迫の防止: 原価割れの仕事ばかりでは、経営が立ち行かなくなり、労働環境も悪化します。
  • 手抜き工事・安全対策の不備の防止: 適切な利益が確保できなければ、やむなく品質の低い材料を使ったり、必要な安全対策費用を削ったりする事態を招きかねません。
  • 業界全体の健全な発展: 適正な価格競争を通じて、技術力や品質で勝負できる環境を作ります。

2|建設業法19条の3違反を構成する「2つの要件」

「不当に低い請負代金の禁止」違反が成立するためには、条文にある、2つの要件が必要です。

要件①:取引上の地位の不当な利用

これは、注文者(元請)側が、取引上の優位な立場を悪用したかどうかという、行為の「不当性」に関わる要件です。

「不当な利用」に当たる具体的な行為例

優越的地位の不当な利用とは、下請負人が契約に応じなければ、今後の取引において不利益を被ると判断せざるを得ないような状況を作り出し、契約を強要する行為を指します。

行為例解説
一方的な指値の強要下請負人の見積もりや内訳を一切確認せず、元請の一方的な予算額を突きつけ、「この金額でなければ契約しない」と強要する。
取引停止を示唆「この単価を受け入れなければ、次回以降の取引はない」といった、将来の取引継続に不利益な圧力をかける。
過度な交渉の拒否下請負人が原価根拠を示して価格交渉を求めているにもかかわらず、一切協議に応じずに、当初の低価格を押し通す。

要件②:通常必要と認められる原価に満たない金額

これは、実際に提示された請負代金が、客観的なコストを下回っているかどうかという、価格の「不公正性」に関わる要件です。

「通常必要と認められる原価」とは?

この原価には、適正な利益(利潤)は含まれません。純粋に、その工事を施工するために最低限必要な以下の費用を合計したものです。

  1. 直接工事費: 材料費、労務費(賃金・法定福利費)、機械経費など。
  2. 間接工事費: 現場管理費(現場監督の給与、安全管理費、事務用品)、共通仮設費など。
  3. 一般管理費: 本社での事務管理費用、営業費用、財務費用など、工事費に対応する部分。

この「通常必要と認められる原価」は、元請の社内的な積算基準ではなく、同種工事の市場価格や、下請負人が提出した内訳のある見積もりの根拠に基づいて、客観的に判断されます。

3|「不当に低い」に当たる具体的な違反事例

ここからは、実際に建設業法19条の3に違反する可能性が高い行為や事例を、より詳しく解説します。

1. 契約締結時の違反

違反事例行為の具体性どこが違反か(19条の3との関係)
単価切り下げの強要下請から適正な積算根拠に基づいた見積もりが提出されているにもかかわらず、「他の業者ならもっと安い」「予算オーバーだ」といった理由だけで、根拠を示さずに大幅な単価切り下げを強要し、原価割れの金額で契約する。要件①(地位の利用)と要件②(原価割れ)を同時に満たす典型例。
労務費・法定福利費の削減指示下請の見積書にある労務費や法定福利費(社会保険料など)を、「元請が負担している」などと虚偽の理由で一方的に削除または減額し、契約金額を低く抑える。法定福利費は「通常必要と認められる原価」の一部であり、これを削ることは原価割れ(要件②)に直結する。
資材価格高騰時の価格据え置き強要契約前に資材価格が高騰しているにもかかわらず、その増額分を一切認めず、優位な地位を利用して、下請が赤字となることが確実な低価格で契約を強いる。市場価格と実態に合わない価格を強いる点で、不当な地位利用(要件①)と原価割れ(要件②)が成立しやすい。

2. 契約締結後の違反

契約書上は適正な金額でも、契約後に実質的に原価を下回る状態を生じさせる行為も、本条の趣旨から見て問題視されます。

違反事例行為の具体性どこが違反か(19条の3との関係)
協力金・歩引き名目での減額契約時に何の取り決めもなかったにもかかわらず、支払時に「協力金」「協賛金」などの名目で一方的に代金から差し引く(いわゆる赤伝処理)。契約締結後の行為だが、実質的に原価割れを強いるものであり、下請法(下請代金支払遅延等防止法)の「不当な減額」にも該当する重大な違反。
過剰なサービス費用の負担転嫁本来元請が負担すべきアフターサービスや保証の費用を、異常に長期間・高額な条件で下請に無償で強要し、その結果、当初の請負代金が実質的な原価割れとなる。費用転嫁により下請の利益が不当に削られ、原価を下回る状態となる(要件②)。

4|「不当に低い」に当たらない適法な事例と境界線

不当な低価格の禁止は、自由な価格競争や適正な価格交渉を否定するものではありません。元請負人がコストダウンを図り、下請負人と価格交渉を行うことは、資本主義経済の原則であり、むしろ奨励されるべきです。

では、「不当に低い」に当たらないケース、すなわち「適法な価格交渉」とはどのようなものでしょうか。

1. 適法な価格交渉・契約の成立例

適法な事例理由・境界線
価格交渉の結果の合意元請が「当社の目標価格は○○円だが、この内訳の見直しでコストダウン可能か」と提案し、下請が自発的に積算を見直し、両者が納得して契約金額を定めた場合。
競争入札による最低価格複数の下請業者に見積もりを依頼し、最も低い価格を提示した業者と契約した場合。ただし、その最低価格が客観的な原価を上回っていることが前提。
下請け側の自己努力下請業者が、自社の独自の技術開発や効率化によって、市場の一般的な原価よりも低い原価で施工できると判断し、その価格で見積もりを提出・契約した場合。
契約後の適正な変更契約契約後に元請の指示で工法や材料が変更され、その結果、下請側の原価が減少したため、その減少分を反映して請負代金を減額することで合意した場合。

2. 適法・不当の境界線は「協議と合意の有無」

適法か不当かを分ける最も重要な境界線は、以下の2点です。

  1. 原価割れであるか(客観性): 提示された金額が、労務費や法定福利費を含む客観的な原価を下回っていないか
  2. 不当な強要があったか(公正性): 注文者が優越的な地位を利用し、下請け側がやむなく契約に応じるしかなかった状況を作っていないか

適正な価格交渉は、下請の見積もり内訳を精査し、「ここの工法を変えればコストダウンできるのではないか」「この材料を代用すればどうか」といった具体的な提案を元に行われ、最終的に双方の合意に至ることです。

これに対し、不当な低価格の強要は、根拠を示さない「脅しや圧力」のもとで、下請けの原価を無視して一方的に価格が押し付けられる点に決定的な違いがあります。

5|違反時の行政処分と経営への影響

建設業法第19条の3に違反した場合、行政庁(国土交通大臣や都道府県知事)による強力な措置が発動されます。

1. 行政指導・勧告・公表

  1. 指導: まず、行政庁による改善指導が入ります。
  2. 勧告: 注文者が指導に従わない場合、是正のための勧告が行われます。
  3. 公表: 勧告に従わない場合、その事実が公表されます。

この「公表」措置が、建設業者にとって最大のダメージとなります。

  • 信用の失墜: 悪質な業者として名前が公表され、発注者や金融機関からの信用を大きく失います。
  • 経営事項審査(経審)への影響: 経審の点数に悪影響を及ぼし、公共工事の受注に深刻な支障をきたします。
  • 指名停止: 公共工事から一定期間、排除される指名停止の処分を受ける可能性もあります。

2. 下請法違反との密接な関係

不当に低い請負代金での契約は、下請法(下請代金支払遅延等防止法)「買いたたき」や「不当な減額」の禁止規定にも抵触します。

下請法違反の場合、公正取引委員会による勧告や指導、さらに罰則(50万円以下の罰金)の対象となり、行政処分が重複して行われるリスクがあります。建設業者は、両方の法令を厳格に遵守する必要があります。

6|不当な低価格から自社を守るための対応策

元請・下請それぞれの立場で、不当な取引を避け、公正な契約を実現するための具体的な対策を解説します。

1. 元請負人が取るべき対策

  1. 「適正な原価」の理解と積算力の強化:下請の適正な原価構成(特に労務費、法定福利費)を理解し、自社の積算部門の精度を高めることが、適切な価格設定の出発点です。
  2. 内訳明細に基づいた協議の徹底:「この見積もりは高い」と一蹴するのではなく、下請から提出された見積もり内訳明細のどの項目が課題かを具体的に指摘し、コストダウンの根拠ある提案を行うなど、双方向の協議を徹底してください。
  3. 書面による記録の徹底:価格交渉の経緯、増減額の理由、最終的な合意内容をすべて書面(議事録、覚書など)に残し、地位の不当な利用がなかったことを証明できるようにしてください。

2. 下請負人が取るべき対策

  1. 正確で詳細な見積もりの提出:見積もりには、単価、数量、労務費、法定福利費を明確に記載した詳細な内訳明細を必ず添付してください。「通常必要と認められる原価」を証明する最も重要な武器となります。
  2. 原価資料の整備と保管:資材の仕入れ伝票、労務費の計算根拠など、自社の原価を示す資料を保管してください。不当な低価格を提示された場合、これらの資料を元請に提示し、価格の妥当性について交渉を行うことが重要です。
  3. 毅然とした交渉と専門家への相談:不当な低価格を強要された場合は、曖昧な返事をせず、法令違反のリスクを指摘し、増額の根拠を明確に伝えてください。交渉が困難な場合は、行政の相談窓口(建設業担当部署)や、建設業専門の弁護士、行政書士などの専門家に速やかに相談しましょう。

7|まとめ:公正な取引が業界の未来を築く

建設業法第19条の3は、建設業界の健全なサプライチェーンを守るための防波堤です。

不当に低い請負代金は、目先のコスト削減に見えても、最終的には品質の低下、技術者の育成阻害、そして重大な法令違反リスクとして、企業の存続を脅かすことになります。

元請負人は、自社のコンプライアンスを守るため。下請負人は、自社の適正な利益と権利を守るため

すべての建設業関係者がこの規定の重要性を深く理解し、公正な価格、公正な契約を通じて、日本の建設業界の明るい未来を築いていくことが求められています。

弊所のご紹介

弊所は建設業許可に特化した行政書士事務所です。
ご相談は無料で承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。元、型枠大工の行政書士が全力でお客様の事業をサポートいたします。

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