【建設業許可の要件】適切な社会保険とは?ケース別に徹底解説!
【建設業許可の要件】適切な社会保険とは?ケース別に徹底解説!

建設業許可を取得する上で、避けて通れないのが「社会保険」の問題です。特に、2020年(令和2年)10月1日の建設業法改正以降、「適切な社会保険への加入」は、建設業許可の取得および維持のための必須要件となりました。
社会保険への加入は、従業員の福祉向上、業界の健全化、そして元請・下請関係における公正な競争環境の実現という、非常に重要な目的を持っています。
この記事では、「適切な社会保険」とは具体的に何を指すのか、どのようなケースで加入義務が生じるのかを、法人の場合、個人事業主の場合、さらには一人親方の場合に分けて、徹底的に解説します。これから建設業許可の取得を目指す皆さまに、ご参考にしていただけると幸いです。
目次
1|なぜ社会保険の加入が建設業許可の要件になったのか?

かつて、建設業界では社会保険の未加入問題が深刻でした。未加入の事業者は、法定福利費(社会保険料の事業主負担分)を負担しない分、コスト面で優位に立ちやすく、真面目に加入している事業者が不利になるという不公平な状況が生じていました。
この問題を解消し、建設業で働く人々の処遇改善や業界全体の持続的な発展を促すために、建設業法が改正され、社会保険の加入が許可要件として義務付けられたのです。
建設業許可を新規で取得する際だけでなく、5年ごとの更新時にも加入状況が厳しくチェックされます。未加入のままでは許可の申請が受理されず、将来的に許可の取消し事由となる可能性もあるため、適正な加入は事業継続の生命線と言えます。
2|建設業許可で求められる「適切な社会保険」とは?
建設業許可の要件における「社会保険」とは、次の3つの保険を指します。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
これらの保険について、法律上の加入義務がある事業者は、そのすべてに加入し、従業員等を加入させている状態が「適切な社会保険への加入」と判断されます。
※上記に加えて、労働者を1人でも雇用する場合(短時間労働者など一部例外あり)は労災保険への加入も必須ですが、これは労働保険事務組合などを通じて対応することが一般的です。建設業許可の要件としては、主に上記3つの保険の加入状況が確認されます。
3|ケース別!「適切な社会保険」の加入義務

社会保険の加入義務は、事業所の形態(法人か個人事業主か)や、常時雇用する労働者の数によって異なります。
ケース1:法人の建設業者
法人は、役員1人の会社であっても、原則としてすべての従業員・役員について社会保険への加入義務が発生します。
| 保険の種類 | 役員・常勤従業員 |
| 健康保険・厚生年金保険 | 加入義務あり |
| 雇用保険 | 従業員(労働者)に加入義務あり ※役員は原則加入義務なし |
【ポイント解説】
- 健康保険・厚生年金保険:法人設立時点で「適用事業所」となり、代表取締役(社長)も含めたすべての役員および常勤従業員に加入義務が生じます。
- ただし、一部の健康保険組合(例:全国土木建築国民健康保険組合(建設国保)など)の適用除外承認を受けている場合は、健康保険についてのみ、国民健康保険組合への加入で代替可能です。この場合でも厚生年金保険への加入は必須です。
- 雇用保険:従業員を1人でも雇用すれば「適用事業所」となり、所定の要件を満たす労働者(週の所定労働時間が20時間以上+31日以上の雇用見込みがある)について加入義務が生じます。
ケース2:個人事業主の建設業者
個人事業主の場合、雇用する従業員の数によって加入義務が大きく異なります。
A. 常時5人以上の従業員を雇用する場合(法定業種の場合)
常時5人以上の従業員を雇用する個人事業主は、原則として法人と同様の加入義務が生じます。
| 保険の種類 | 事業主本人 | 家族従業員 | 常用従業員(5人以上) |
| 健康保険・厚生年金保険 | 加入義務なし(個人で国保・国年) | 原則加入義務なし | 加入義務あり |
| 雇用保険 | 加入義務なし | 原則加入義務なし | 加入義務あり |
B. 常時4人以下の従業員を雇用する場合
常時5人未満の個人事業主は、健康保険・厚生年金保険の適用事業所ではありません。
| 保険の種類 | 事業主本人 | 家族従業員 | 常用従業員(4人以下) |
| 健康保険・厚生年金保険 | 加入義務なし(個人で国保・国年) | 原則加入義務なし | 加入義務なし(個人で国保・国年) |
| 雇用保険 | 加入義務なし | 原則加入義務なし | 加入義務あり |
【ポイント解説】
- 健康保険・厚生年金保険:常時4人以下の個人事業所は、法律上、健康保険・厚生年金保険の加入義務はありません。事業主本人や従業員は、国民健康保険・国民年金に個人で加入することになります。
- 雇用保険:従業員を1人でも雇用すれば、常時5人未満であっても雇用保険の適用事業所となり、所定の要件を満たす労働者には加入義務が生じます。
ケース3:一人親方の場合
「一人親方」とは、労働者を雇用せずに自分自身と家族のみで事業を行う個人事業主を指します。
| 保険の種類 | 加入義務 |
| 健康保険 | 国民健康保険または建設国保などに個人で加入 |
| 厚生年金保険 | 国民年金に個人で加入 |
| 雇用保険 | 労働者ではないため加入義務なし |
【ポイント解説】
- 一人親方は、法人や従業員を雇用する個人事業主とは異なり、労働者として扱われないため、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の事業主としての加入義務はありません。
- ただし、「適切な社会保険」への加入という要件を満たすため、本人が国民健康保険や国民年金に加入していることが確認されます。
- また、現場入場要件として、一人親方労災特別加入(労災保険)を求められることが多いため、こちらも適切に対応することが重要です。
4|建設業許可申請時の提出書類

建設業許可を申請する際には、上記の適切な社会保険に加入していることを証明する書類の提出が求められます。主な証明書類は以下の通りです。
| 保険の種類 | 主な提出書類(例) |
| 健康保険・厚生年金保険 | ・保険料の領収証書または納入告知書の写し ・健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書の写し |
| 雇用保険 | ・労働保険概算・確定保険料申告書および領収済通知書の写し |
【注意点】 保険料の領収証書などは、納付が遅れていると「適切な加入」と認められない可能性があります。常に期限内の納付を心がけましょう。また、提出書類は各自治体(都道府県)によって細かく指定されている場合があるため、申請先の窓口で必ず確認してください。
5|まとめと次のステップ

「適切な社会保険への加入」は、もはや建設業許可の取得だけでなく、建設業者として事業を継続していくための大前提です。未加入の状態では、許可の取得・更新ができないだけでなく、元請業者からの指導や、現場への入場を拒否されるなど、事業に重大な支障をきたす可能性が高まります。
あなたの会社の形態や雇用状況に応じて、どの社会保険に加入義務があるのかを正確に把握し、必要な手続きを漏れなく行うことが重要です。
もし、ご自身の会社の加入義務や手続きについて不安がある場合は、専門家である社会保険労務士または建設業許可に詳しい行政書士にご相談ください。専門家のサポートを受けることで、法令遵守を確実にし、スムーズな建設業許可の取得を目指しましょう。


